V35 スカイラインクーペ 試乗記
(2003年11月20日記)

今回試乗させて頂いたのはスカイライン(V35)のクーペモデルです。このスカイラインクーペは昨年11月に北米で発売されたインフィニティ G35 SPORT COUPEを国内販売したもので、今年の1月に登場しました。発売から既に1年近くが経とうとしていますが、街で見かけるスカイラインクーペの数はそんなに多くはない様です。クーペというモデルに人気がないのか、スカイライン自体の人気が無くなったのか・・・。思い起こせば約2年前に同じスカイライン(V35)のセダンモデルが発売されましたが、前モデルであるR34からの変貌に驚いたことも、まだ記憶に新しいところでしょう。まずはその辺りから触れてみたいと思います。
■一億総スカイラインファン?
約2年前に新型スカイライン(V35)としてセダンモデルが発売されました。そのデザインはそれまでのスカイラインとは似ても似つかぬほどの変貌を遂げ、スカイラインファンのみならず多くの人を驚かせました。当時、街で会う人みんなが口々に「あれはスカイラインじゃ無い!」と言っていたと言うと大げさですが、クルマに興味が無いと思っていた友人までもがそんなことを言っていましたので、世の中の「隠れスカイラインファン」があぶり出されたのかな?などと笑っていました。 まさに「一億総スカイラインファン」状態だったと思います。確かにこのモデルチェンジはかなり思い切ったもので、エンジンも直列6気筒からV型6気筒に一気に変更してきましたし、多くの人たちが指摘していたのはスカイラインの伝統とでも言うべき丸いテールランプが無くなったことだったでしょう。今から思うとクーペモデルも同時に発売していれば日本中をそんなに驚かせる事はなかったはず、過去にもそういう組み合わせはありましたからね。
■変わり過ぎじゃなくて、変わらな過ぎだったんじゃないの?
私が個人的に思っていることの一つが「変わり過ぎじゃなくて、変わらな過ぎだったんじゃないの?」っていうことです。確かに前モデルのR34から新型のV35へは大きく変化したと思います。しかし、R32→R33→R34ってマイナーチェンジに毛の生えた程度にしか見えなかったんですよね。実際には変わっているんでしょうが、R32で16年ぶりにGT-Rが復活し人気爆発してしまったため、その後に続くモデルがどうしてもそこから離れられなかったという実態があった様な気がします。まぁそれだけGT-Rのイメージって強いんでしょう。しかし、この新型スカイライン(V35)は、スカイライン=GT-Rのイメージを取り払ったモデルとなりました。この辺り、今後の動向が気になるところです。
■セダンとクーペ
先にも書きましたが、今回のスカイライン(V35)はセダンモデルが先行発売され、何と2年近く遅れてクーペモデルの発売となりました。これだけの期間があれば違うクルマが出来てもおかしくありませんが、実際に比べてみるとやはり大きく違っています。 後部座席やトランクスペースの縮小などはクーペデザインのため当然と言えば当然なのですが、セダンに比べ全幅を65mm広く、全高を75mm低くし、ワイド&ローのプロポーションを強調しています。また、ロングホイールベースはそのままであるにも関わらず全長を35mm短縮するなど、クーペモデルの命とも言うべきスタイル&デザイン重視の設計となっています。そして、雑誌などによく書かれていますが、外装部品でセダンとの共通部品がほとんどありません。
■そして試乗、その第一印象は・・・
最近のクルマは安全ボディーのため腰高なクルマが多く、このスカイラインクーペも例に漏れずかなり腰高な仕上がりとなっています。しかし、ワイド&ローのプロポーションはドッシリとした安定感のあるデザインで、スタイルは抜群に魅力的なものでした。クーペの流れるようなラインを損なわない各部のディテール、バランスの良いデザインされた高級感のある大人のクーペという印象を受けました。 そしてクーペ特有の大きなドアを開けてシートに座ると、「おや?」意外にシート位置が高いことに気づきました。シートリフターを一番低く調整してもなお高く感じます。 ただ、そのおかげで腰高に仕上がったドアの高さを感じることは少なかったのですが、助手席に小柄な女性などが座るとやはりドアの高さが気になるようです。また、外観に比べ内装のデザインが追いついていないなと言う感があります。セダンモデルの内装と共通のデザインなのでしょうが、クーペという贅沢なクルマである以上もう少し高級感を演出してほしいと感じました。オプションで木目調インパネがありますが、そういう意味ではないことは分かって頂けると思います。
■大人の味付け
クーペモデルには3.5リッターのVQ35DEエンジンのみが設定され、6速マニュアルミッションとマニュアルモード付きフルレンジ電子制御5速オートマチックが選択できます。今回の試乗車はマニュアルモード付きフルレンジ電子制御5速オートマチックでしたが、アクセルから伝わってくる感覚は「重さ」でした。電子制御でどのようにでも味付けできるオートマチックですので、あえてこのようなセッティングにしているのでしょう。前回試乗した、同じエンジン、同じミッション、ほぼ同重量のフェアレディZロードスターと比較すると、軽快なアクセルワークが可能であったフェアレディZに対してかなり大人の味付けがされています。スポーツカーと比べてはダメと言われそうですが、同じスペックなのに故意に変えてある点をあえて記述しました。セールスターゲットが40才台と言うことですが、40才ってまだまだ若いですし、クーペを選ぶハイセンスなユーザーに対しもう少し軽快なフィーリングを与えても良かったように感じます。 重いと言えばステアリングも重く感じましたね。
■「エレガント」と言う言葉がピッタリ!
クーペモデルの命がスタイル&デザインであるならば、このスカイラインクーペはまさにクーペモデルのトップクラスと言えるでしょう。 高速道路のサービスエリアでスカイラインクーペを駐車させ、クルマから離れ何気なく眺めていると、スカイラインクーペのデザインが周りに駐車しているどのクルマよりも美しいことに気づきます。 同時に周りのクルマがとても古くさく見えてくるのは、スカイラインクーペのスタイリングやデザインが未来的なフォルムを生み出しているからでしょう。まさに「エレガント」という言葉がピッタリのクルマだと思いました。 そして、高速走行の安定感、3.5リッターのパワー、その走りは十分満足のいくもので、高速クルージングにはもってこいのクルマでした。アメリカでよく売れているということが納得できますね。

■またまたチョット聞いてみました。
今回も2日間の試乗をさせて頂きましたが、最近の日産車の足回りって素晴らしいと思います。 やはりチョット硬いという印象はありますが、ただ硬いだけでなく数年前ではアフターパーツで数十万円掛けなければ仕上がらなかった足回りが既に純正の段階で手に入っている気がします。それにはよく耳にする「フラットライドコンセプト」がその重要な役目を打ち出しているのでしょう。縁あって横須賀にある日産自動車追浜工場テストコースに伺った際、そのフラットライドコンセプトが生まれた切っ掛けとなったお話を聞くことが出来ました。お話を伺えたのは、フラットライドコンセプトの開発にも携わられたレーシングドライバーの鈴木利男さんです。

鈴木さんは、1989年にスプリングもショックアブソーバーも無い、油圧コントロールで完全制御したオールアクティブサスペンションを採用したグループCカーの走りが忘れられず、このフラットライドコンセプトに取り組んだそうです。そのグループCカーは、富士スピードウェイで3ラップ目にリタイヤとなってしまったのですが、その3ラップが夢の世界であったと語ってくれました。 元々クルマは、ブレーキを踏めば前に傾くし、ハンドルを切れば外側に傾くもので、レーシングドライバーはそれをいかにうまくセッティングしコントロールできるかで速さが決まります。オールアクティブサスのCカーは、ブレーキを踏んでも前は沈まない、コーナーでどんなに突っ込んで入っても外側に傾かない、外に傾かない分タイヤの幅全てが路面に接地し、富士スピードウェイのどんなコーナーでも気持ちよく、そして速く曲がれたそうです。 この経験から、4つのタイヤにしっかり仕事をさせるクルマは乗っていても疲れないし速い。フラットライドコンセプト、いやフラットライドスポーツは、より高次元でクルマを楽しむことができる、ドライバーが走りを楽しめるものであるとのことでした。

■クーペだから出来ること
このスカイラインクーペは、クーペだから出来ることを遠慮無くやってしまった気持ちの良い覚悟が伺えます。 それがそのまま良さにつながっていることは間違いなですね。先にも書きましたが、デザインのために後部座席やトランクルームの縮小、全高75mmの縮小などで実用性を犠牲にし、65mm広がった車幅は居住性のためでなく張り出したフェンダーを創り出すため。ともすればいたずらにサイズアップしたと言われかねないことを、デザイン重視のクーペだから許されると認識しているところなどは、まさに確信犯と言えます。逆にそうでないと本当の意味のクーペは創れないでしょう。
■スカイラインに望むもの
今回の試乗でスカイラインクーペに望むこととして、やはり内装にもっと高級感またはスポーティーさを取り入れて欲しいと思います。そして、セダンにあってなぜクーペにないのか?そう!エクストロイドCVT-M8、パドルシフトの8段変速です。また、このクーペのデザインを崩さずにセダンが出来れば、スカイライン自体がもっと魅力的なものになること間違いないでしょう。
■スカイラインとGT-Rを分ける必要性
日産自動車は今後、スカイラインとGT-Rを別の車種として位置付けていくと発表しました。 今回のモデルチェンジから型式もR(R34)からV(V35)に変更になっていますから、その方向性は今回の開発時点で決まっていたことだと思います。実際にスカイラインのラインナップの中でGT-Rだけは特別な存在で、全く別物のようなスペックであったことは理解しています。しかし、それをあえて分ける必要性は今のところ発見できません。そもそもスカイラインとモータースポーツは切っても切り離せないものだと思っていましたが、スカイラインとGT-Rを切り離すことによりスカイラインとモータースポーツを切り離す結果となるような気がします。 その答えはまだ先に持ち越されそうですが、スカイラインのブランドイメージはモータースポーツから来ているはず、大切にしたいですね。
■驚いた!
最後に、チョット驚いた話を一つ。試乗車を借りてまずは給油しようとスタンドへ。 給油口にプレミアムと書いてあるのでそれに従い「ハイオク満タン!」と。 給油完了!「70リッター入りました!」・・・耳を疑いました。驚いて車検証を確認すると、80リッタータンクなんですね。気軽に「満タン!」と叫べないクルマです。