G11 シルフィ試乗記
(2006年1月25日記)

2005年12月、4ドアセダンの「ブルーバード・シルフィ」が5年ぶりにフルモデルチェンジしました。先代の「ブルーバード・シルフィ」は、つい最近までTV-CFがON AIRされていましたのでまだ記憶に新しいことと思いますが、緑の森の中で自然に優しく環境への配慮を前面に打ち出したものでした。しかし新型「ブルーバード・シルフィ」では、都会的なシチュエーションの中、ハイセンスな女性が優雅に振る舞い、車のファッション性をアピールしたものとなりました。私だけかもしれませんが、そもそもセダンと言えば男性的なイメージがあり、「ブルーバード」のネーミングそのものも同様のイメージがあります。新型「ブルーバード・シルフィ」では、セダンと女性との組み合わせをターゲットとし、女性へのアピールを強調したものとなっているようですが、どこまで自分で理解できるのだろうかと心配しつつ試乗に臨みました。

今回試乗させていただいたのは、2.0リッターエンジンにエクストロニックCVT(無段変速機)をもつ「20M」。新型「ブルーバード・シルフィ」には他に同じ2.0リッターのユニットを持つ20G、20Sがあり、装備の違いによりグレード分けされています。また、1.5リッターユニットのものには2WDと4WDの2グレードが存在し、合わせて5グレードの構成となります。

■らしくないスタイリング
この車を初めて見たとき、フロントからはどことなく「フーガ」を思わせる部分がありました。もちろん同じメーカーからのリリースですので、デザインが継承されるのは当然のことと思っています。しかし、それでもどことなく日産らしくない?イメージが抜けきれません。昨今の日産のデザインはルノーに似ているなどとよく聞きますが、そのイメージはやはりフランス車ということになるかと思います。ところがこの新型「ブルーバード・シルフィ」には同じヨーロッパでも、フランス車と言うよりはどことなくドイツ車っぽいイメージが強く、ルーフに衛星ラジオのアンテナなんかがあると、「まさにそのもの!」なんて思ったりします。
リアから見た場合、「フーガ」同様にトランクの高さが印象的です。これは、リアウインドウを後部に下げ、リアシートのヘッドクリアランスを最大限に確保するとともに、ハッチバックのようなイメージにならないようデザインのバランスを整えたためでしょう。そのトランクの開閉部はとても小さいのですが、見た目以上の容量を持っています。外観のバランスから想像する室内空間のレイアウトが違って見えるため、トランクを開けた瞬間、ちょっとビックリするほど広い収納空間となっています。
全車5ナンバー枠に収まるサイズで、室内空間を最大限に確保しているのと、「20G」以外全て15インチタイヤのため少し胴長に見えますが、これもまたドイツ車っぽいイメージを出している要因となっているのかもしれません。
■「S-motion」というS字曲線を多用したインテリア
シートに腰を下ろした瞬間、波のようなダッシュボードが目の前に飛び込んできます。また、体を包み込むようなシートはとても柔らかく、スッポリと収まる感覚・・・収まると言っても決してバケットシートのように体をサポートするようなものでなく、とても気持ちのいいものでした。「ティアナ」の登場から日産の新型車に多く取り入れられてきたモダンリビングの思想は、この新型「ブルーバード・シルフィ」にも継承されています。暖かな木目調に、柔らかな色調のデザイン。また、実際にどこをさわっても柔らかさを感じる素材を採用するなど、女性にはとても好感が持てる内装となっています。また、内装全てにおいて直線的なアプローチがほとんど無く、曲線、曲面の構成が立体感とともに高級感をも感じさせるものとなっているようです。
もう一つ特徴的なのが、コンパクトカーのようにダッシュボード自体が低い訳ではないのですが、ダッシュボードに奥行きが少ないため室内空間がとても広く感じられるとともに、目の前に広がる視界が驚くほど広く感じられました。これは、車両感覚がつかみやすく運転がとても楽になることと思います。
■驚きの居住空間(リアシート)
「ティーダ」では「シーマ」よりも広いリアシートの足元空間があるなど、最近の車の室内空間はとても広くなってきました。逆に広いのが当たり前のようになってきた感もありますが、この新型「ブルーバード・シルフィ」は、分かっていても感心するほどの空間が存在します。しかも、スタイリングでも記述したように、リアシートにおけるヘッドクリアランスが驚くほどとられています。フロントシート同様、体を包み込むシートと相まって、とゆとりの移動空間が存在します。先日、日産の販売店にお邪魔した際、新型「ブルーバード・シルフィ」は「5ナンバー枠で最大の室内空間を確保しました」と、カーライフアドバイザーの方がアピールされていました。
■静かな室内に拘りの空調
室内はとても静かで、エンジンのアイドリング状態ではエンジン音すら微かなものとなっています。また、2.0リッターモデルには、車内を常に新鮮な空気に保つ「インテリジェントエアコンシステム」が採用されており、イオンのバランスをコントロールするエアコンや、排気ガスを関知して外気導入と内気循環を自動で切り替える機能を備えます。もちろん、日産のオプションでラインナップされている「除菌イオン」効果も「インテリジェントエアコンシステム」に標準で組み込まれており、車内空間の快適性にあらゆる面からこだわったものとなっています。
■快適!2.0リッターエンジン+エクストロニックCVT
先代の「ブルーバード・シルフィ」には2.0リッター、1.8リッター、1.5リッターと3種類のパワーユニットが存在しましたが、新型では2.0リッターと1.5リッターの2種類となっています。私の勝手な想像ですが、新型の2.0リッターエンジンでは旧型の1.8リッターエンジンに近い燃費の向上があり、また新型1.5リッターエンジンでは旧型1.8リッターエンジンに近いパワーを得られたことにより、新型では1.8リッターエンジンの存在理由が薄れた結果ではないかと思っています。
試乗させていただいた2.0リッターモデルはエクストロニックCVTとの相性もよく、アクセルから伝わるパワーもとても自然なタッチでした。特にビッグパワーを感じるとか、パワー不足を感じるとかと言うような直接的な感覚とは全く違った、「ごく自然に思うまま走ることが出来る」・・・エンジンパワーを気にすることなく扱えるといったものでした。もちろんパワー不足であればそう感じるはずでしょうし、スポーティーであればアクセルを踏んだ瞬間からそのパワーは感じられます。それらを全く気にしないで走ることが出来るのは、十分なパワーとそれを伝達するエクストロニックCVTのセッティングによるものでしょう。この車は誰が一番使うのか、その場合に一番大事なことは何なのか、「子離れ層であるポストファミリー」をメインターゲットとしたコンセプトが見事に反映されたセッティングであると感じました。
■二面性を持つ足回り
運転しているとエンジンのパワー同様、何気なく真っ直ぐ走ることがとても自然に出来る車だなと感じました。足回りのシビアさや、ホイールベースの関係でついついハンドルに力が入る車がありますが、この新型「ブルーバード・シルフィ」は、これまた直接コメントするような感覚がありませんでした。ここでも「ごく自然に思うまま走ることが出来る」・・・ものとなっています。舗装された一般道を流している時の静かさも、他の車とは一線を引くものとなっています。また、コーナリングはフラットで機敏なのですが、シートの柔らかさが緩衝し、乗車する人にマイルドな感覚を与えています。急なコーナリング時、体はロールしているかの様に感じますが、クルマ自体はとてもフラットにコーナリングを行っています。オーバースピードでコーナーにさしかかっても、余裕でクリアできる性能は持っているようです。道路の段差などで少しマイルド感が失われ、衝撃が気になる場合がありますが、逆にこのことが「決して柔らかいだけの足回りではない」のだと実感させられる瞬間でもあります。
■初めて乗る車とは思えないほど自然に扱える
エンジンのパワー感、ステアリングの操作性などからも伺える様に、初めて乗った車にも関わらず、ずっと前から運転していたような自然な感覚を得られたクルマでした。試乗を終えた率直な感想として、「とにかく運転しやすい!」クルマでした。気負いせず、気軽に、そして自由に生活やファッションとして馴染む空気を持ったクルマなのでしょう。このことは、先代の「ブルーバード・シルフィ」が自然環境にとけ込むようなコンセプトを打ち出していたことに通ずるところがあるのかもしれません。
■今回は妻の感想なども。
試乗では、助手席やリアシートでの検証を行う間、妻が運転を担当する時間があります。まだまだ子育て中で、コンセプトにある「ポストファミリー」にはチョット届きませんが、私が担当した試乗車のほぼ全てに同乗し、その都度運転も経験していますので、一応女性としての意見もと思い聞いてみました。まずエクステリアについて、試乗させていただいた「セシルブルー」のカラーリングは、鮮やかな中にも落ち着いたイメージがあることと、クルマのデザイン自体が、コンセプト通り本人よりももう少し年上の落ち着いた年齢の方が似合うであろうとのことでした。また、サンドベージュの内装が室内を明るくし好感が持て、アイボリーメーターは運転席周りを可愛くイメージアップしていてとても良いとも。
気のせいと思うのですが、ステアリングの握りが小さいく感じるらしく、小さな手になじむ反面、頼りなさを感じているようでもありました。ダッシュボードやコンソールボックスの大きさには感心するとともに、各所に設けられた物入れの多さも気に入っているようでした。ただ一つ、運転時にチョットした小銭をしまう場所があればもっと便利であろうとも。そして最後には、リアシートの柔らかさや空間の広さが心地よいらしく、「私はリアシートが一番いいよ!」などと・・・。子育てに追われている今は、リアシートでのんびりするのが一番なのかもしれません。
■新車購入の決定権は女性?
何かの本で、新車購入の決定権は子供や女性が握っていると読んだことがあります。家庭では奥様の意見で車種が変わるなんてこともしばしばあるとか。また、独身の場合でも彼女の意見は大きな判断材料になることもあるでしょう。クルマはまず女性にも気に入ってもらえないとダメってこと?。よほどクルマに拘りがある方は別でしょうが、クルマが趣味という方でも、購入前にはきっと女性の意見を聞いているのではないでしょうか。それだけ女性の影響力は大きい様です。
SHIFT_elegance。新型「ブルーバード・シルフィ」は女性の繊細さ、しなやかさなど、優雅さとともに女性をドレスアップさせるクルマとして登場し、かつての男性的なセダンのイメージは、すでに過去のものであると認識せざる終えないほどの内容となっています。女性とセダン・・・自分でもどこかセレブリティな雰囲気が感じられるようになってきました。